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負の循環から正の循環へ!ココナッツから生まれたお酒でフィリピンの教育問題を解決する「Wanic」 [マイプロSHOWCASE]

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この写真、なんだと思います?

実はこれ「Wanic」と名付けられた、ココナッツのお酒です。なんと、ココナッツの実をそのまま容器として使用しています!

このお酒は、Wanicの森住直俊さんが、旅先のフィリピンで出会った子どもたちのキラキラした笑顔を見た時に、「途上国の子どもたちが、しっかり教育を受けられる仕組みをつくりたい!」という思いをもったことから生まれました。

お酒を利用して教育問題を解決する…それはいったいどういうこと?

Wanicって?

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まずはWanicのご紹介から。もともとココナッツを使ったお酒は、ココナッツが豊富にある熱帯地域の国々にはたくさんあります。ココナッツの枝を切ってペットボトルをつけておくと、そこに樹液が落ちてきて、それを2日間ほど置いておくと発酵してお酒になるのです。

でも簡単に作れることは作れるのですが、保存性が悪く、さらに数日置いてしまうとお酒ではなく酢のようになっておいしくなくなってしまいます。そこで着目したのがココナッツの実でした。

お酒づくりに欠かせないのはきれいな水ですが、じつはココナッツの実の中は無菌状態。ジュースは点滴代わりに利用されていたほど、栄養価が高くて衛生が保障されているものなのです。

そこで、このジュースをそのまま使って種子内で発酵させたら、おいしいお酒ができるのではないかと考えました。ココナッツの実をそのまま容器として利用しますから、見た目も楽しい!

ある程度保存性も確保でき、Wanicオリジナルの製造キットさえあれば簡単に作れるので、製造のための大きな設備やお酒を入れる容器を確保することもしないで済みます。まさにちょっとしたアイデアから誕生したグッド・プロダクトなんです。

出会いと思いから始まった「ワニック・プロジェクト」

wanicの森住直俊さんは3月に大学院を卒業したばかり。

wanicの森住直俊さんは3月に大学院を卒業したばかり。

このWanicを使った「ワニック・プロジェクト」。きっかけとなったのは、2010年度の第1回See-Dデザインコンテストです。

途上国が抱える問題を解決する製品を生み出すことを目的として始まったコンテストで、応募者の中から実行委員サイドに指定されてチームを組んだのが、それまで面識がまったくなかった、医師、大学講師、学生、メーカー勤務のサラリーマンなど、職業もバラバラなら年代もバラバラな現在の6人のメンバーでした。

コンテストの対象地は東ティモール。森住さんたちは、東ティモールにたくさんあるココナッツを通じて現地の人たちの現金収入を上げよう、そのためにはココナッツをどうすればいいだろうというところから、チームで話し合いました。

そして、高付加価値がつくお酒にすることで現金収入を上げることができるのではないかというアイデアが生まれました。それまでお酒づくりなど誰もやったことがなかったのに、とにかくやってみよう!と試行錯誤の末、ココナッツの実をそのまま利用するWanicを完成させたのです。このプロジェクトは、みごとコンテストの最優秀賞を獲得しました。

そしてすでにフィリピンを対象地に選んでWanicとは別のプロジェクトを考えていた森住さんは、東ティモールと同じようにココナッツが豊富にあるフィリピンでもWanicが利用できるのではないかと考えました。森住さんがフィリピンでやりたかったこと、それは「子どもたちに教育の機会を与えること」でした。

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負の循環から正の循環へ!

「世界を見てみたい!」という軽い気もちで行った世界一周旅行で、ふたつのきっかけがありました。ひとつは、観光がてらぐらいの軽いノリで、インドに1週間ボランティアに行ったことです。

じつはそれまで、ボランティア活動ってあんまり好きじゃなかったんです。それまでのボランティアとは何かが違っていたのか、そもそも食わず嫌いだっただけなのか(笑)何かを人にしてあげることで相手が喜んでくれる、自分も嬉しいし役に立てる、それがすごくしっくりきて「あ、これを仕事にしたいな」と思いました。

もうひとつはいろいろな国で子どもたちのキラキラした笑顔に出会ったことです。このまままっすぐ育ってくれたらすばらしいんですけど、親が低収入だったり孤児だったりで、学校に行くことができないという現状をまのあたりにしました。そこから、子どもたちに教育の機会を与える仕事をしていきたいと思ったんです。

ですから、「ワニック・プロジェクト」にしても、背景には子どもたちをどうにかしたいという思いがあります。そのために、ただ現金収入を得られるようにするだけではなく、どこに現金収入を生んでどう循環させていくのかまでをトータルで考えています。

発展途上国の産業支援というのはあちこちで聞かれる話ですが、そこに「自分ごと」の思いが加わると、より明確なビジョンのある仕組みづくりにまで発展します。

「子どもたちが教育を受けられる社会を作る」「ストリートチルドレンをなくす」という明確なビジョンがあったからこそ、森住さんたちはごく自然に、循環型の仕組みの構築までを考えてプロジェクトを進めるようになりました。

フィリピンの子どもたちの現状として、子どもが教育を受けられないからその子どもが親になっても仕事が得られない、親になっても仕事がないから子どもに教育を与えられないという負の循環があると感じました。

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そこで「ワニック・プロジェクト」では、スカイプでオンライン英会話授業を展開する現地企業のワクワークのモデルを参考にすることに。孤児院では、5歳の子どもに対して、高校生や大学生になると学費や生活費の面で約3倍のコストがかかるとのこと。そこで、20代の若者に就業の場を提供することで生活面で自立してもらうことを考えました。

そうすると3倍のコストが削減されることになるので、新たに3人のストリートチルドレンを孤児院で保護できることになります。さらにその若者が親になっても、仕事があるから子どもに教育を与えられるという正の循環も生まれます。負の循環から正の循環に変えていくというのがwanicのプロジェクトなんです。

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循環型の仕組みには広がりがある!

この土台となる仕組み以外にも、Wanicにはさまざまな可能性があります。

試飲会をやっていて、「飲むっていう体験自体が楽しいお酒だね」という感想をいただくことがあります。その時は試飲される方々に実際にWanicを作ってもらって、みんなで飲みました。そういう体験事業にもつながりますし、ココナッツとセットでWanic製造キットを販売することも考えられます。キットの製造自体も雇用に繋がりますよね。

あと、もうひとつの利点は、地方に雇用を生む可能性があるってことなんです。フィリピンのセブなど、都市部にあたる場所にストリートチルドレンがいっぱいいるんですが、その子どもたちがどこからきているのかを調べた研究があって、ミンダナオ島からきてる子どもが多いっていう結果が出てるんです。

ココナッツは地方部のほうがたくさんあるので、ミンダナオ島にWanicで雇用を生むことができれば、子どもたちが都市にくる前に食い止めることができます。なので孤児院のモデルとは別に、もう一方の事業展開としては、地方部に製造拠点を作りたいなと思っています。

現在は、現地の材料と技術で作ることができるWanic製造キットをデザイン・改良したり、ラオスにある酒蔵に修行に行って品質の安定と向上を進めていて、商品化まであと1歩のところにきています。

ココナッツの実ひとつでだいたい中身が750ml。ワイン1本分と考えて、日本円で1000円程度の価格設定を考えているそう。これをまずはフィリピンの観光客向けに販売していく予定です。

孤児院の若者にwanicの作り方を指導中

孤児院の若者にwanicの作り方を指導中

小さくてもいいからまずは始めたい

最後に、今ある課題についても伺いました。

今後の課題は、お酒の安定製造ですね。製造施設や検査施設のようなものを用意して、早く販売にこぎつけたいです。孤児院の若者と、なんで仕事をしたいのかという話をすると、親を幸せにしたいとか、どうしても学校に行きたいんだとか、妹を学校に行かせたいんだとかって言うんです。グッときますよね。そのたびに、もっと早く事業化したいなと思うし、小さくてもいいからまずは始めたいなと思うんです。

ビジョンとしては、5年後ぐらいには路上の子どもたちがいなくなるような社会にしたいと思います。仮に路上にいたとしても、孤児院に保護されて、そこにはWanic製造に関わる若者たちがいる。そして彼らが楽しそうに仕事をしているのを見て、憧れてもらえるようになりたい。そうしたら未来に希望が持てますよね。そういう正の循環をどんどん生み出していきたいです。

途上国の子どもたちのために始めたプロジェクトは、実現に向けて着実に進んでいます。フィリピンのバーにココナッツの実が並ぶ日も、そう遠くありません。それと同時に路上の子どもたちは減り、代わりに未来を夢見る子どもたちの笑顔がフィリピン中にどんどん増えていくことでしょう。

(Text:平川 友紀)

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