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<勝手に日曜美術館:ツアーレポート>涼を愉しむ茶人ツアー

畠山記念館入口

畠山記念館入口

9月5日(日)、秋とは思えない暑さの中、第1回「勝手に日曜美術館」を開催しました。

告知を開催したのが開催日の3日前。参加申し込みは手軽さを考慮してツイッターのみ。しかも、直前でゲストの給湯流家元(仮)(@910ryu)が急遽来られなくなり……。
人が集まるかとホントにドキドキしましたが、@washizukamiさんと@weiting_jpさんのお2人が参加してくださいました。
こんなマニアック(?)な企画が、告知期間3日で参加者2人、ドタキャンなしの参加率100%!は、まずまずの滑り出しではなかろうかと、ホッと胸をなで下ろします。

栄えある(?)初回に訪ねた美術館は、白金の閑静な住宅街にある「畠山記念館」。こちらで開催されている「涼を愉しむ―書画・茶器・懐石道具―」に行って参りました。
ちなみに、「畠山記念館」は、江戸時代に薩摩藩島津家の下屋敷があったところ。それを、荏原製作所の創業者・畠山一清さん(1881-1971)が買い取って、茶室や美術館を整備した、由緒あるところです。

五反田駅で集合した3人は、畠山記念館へと向かいます。五反田駅からは徒歩10分くらいですが、あまりに暑すぎるので、タクシーに乗ってしまいました。軟弱でごめんなさい。

車に乗ること数分、畠山記念館へ到着。壁の作りや門構えが重厚です(冒頭の写真)。

入口から望む中の様子

入口から望む中の様子

まずは緑豊かな庭園がお出迎えです。門扉に見える紋(二つ引両紋)は、畠山家の家紋です。畠山さんの生家は、室町時代の能登の守護大名に連なる名門でございます。緑に囲まれた園内は、外部と明らかに温度が違います。この時点で既に「涼」を感じることができます。

記念館建物の入口

記念館建物の入口

庭園を通って建物の入口に到着。館内は土足厳禁で靴を脱ぎます。でもなぜこの場所で?笑顔の男性は@washizukamiさんです。

畠山記念館創設者・畠山一清さん(1881-1971)

畠山記念館創設者・畠山一清さん(1881-1971)

畠山記念館創設者の畠山一清さん。「即翁」の号を持つ茶人でもありました。実業家にして、豪快な古美術品の蒐集家。近代日本を代表する数寄者の一人です。豪快なオジサマっぷりを見てみたかったなぁ……。

2階が展示室です。撮影NGなのが残念ですが、展示室には茶室と小さな庭が設けられていて、和の雰囲気を楽しみながら展示品を鑑賞できるのは、何とも優雅な感じです。ちなみに、お茶室の中ではお抹茶をいただくことができます。ツアー一行も、展示鑑賞後に茶室でお茶を一服いただきました。

展示品は、展示の副題にある通り、書画に茶器、懐石道具など50点。展示品も当然のごとく撮影NGですが、フライヤー掲載の写真から一点抜粋してご紹介します。

「賤が屋の夕顔図」(酒井抱一筆・江戸時代)。画像はフライヤーをスキャンし、切り取ったもの。

「賤が屋の夕顔図」(酒井抱一筆・江戸時代)。画像はフライヤーをスキャンし、切り取ったもの。

民家の夏の夕暮れを描いています。屋根の上で佇む猫に愛らしさが感じられますが、屋根の上は涼しいのでしょうか?

他にも面白い展示はいくつもありましたが、書画や茶器の面白さを、写真なしで伝えるのは何とも厳しい限りです。美術品所蔵者の利益を守るためという論理は分かりますが、美術品は公共の財産でもあるはずです。美術館での写真撮影の自由度が高まることを期待してやみません。

ところで、展示鑑賞中にこんな光景に出くわしました。

小学生中学年から高学年くらいの女の子とお母さんの親子連れ。どうやら女の子が、展示室内に備えられた茶室の「にじり口(躙口)」に興味を示しました。
「にじり口」とは、茶室の入口です。
学芸員さんとおぼしき人が、にじり口から茶室に出入りする方法を親子に教えています。目を輝かせて話を聞く女の子。話が終わると、実に嬉しそうな表情で、茶室ににじって入っていきました。

Creative Commons. Some rights reserved by 663highland. 写真中段の引き戸の開いているところが「にじり口(躙口)」。

Creative Commons. Some rights reserved by 663highland. 写真中段の引き戸の開いているところが「にじり口(躙口)」。

ちなみに、「にじり口(躙口)」がこんなに狭いのは、頭を下げないと中に入れない、刀を腰に差したままでは中に入れないようにして、身分の別なく、敵意なく茶を楽しめるようにするためと言われています。
写真の茶室は島根県松江市の「明々庵」。島根と言えば、給湯流のSHIO先生のお話に出てきた「不昧流」のお膝元ですね。この「明々庵」は、「不昧流」の始祖・松平不昧公にゆかりのあるものだそうです。

実に微笑ましい親子の姿を目に焼き付けて、ツアー一行は展示室を後にします。この後は再び、しばしの庭園散策。

中国風の石像

中国風の石像

中国風の石像が2体。何者かは……、謎に包まれています。

庭園内の茶室「毘沙門堂・浄楽亭」

庭園内の茶室「毘沙門堂・浄楽亭」

庭園内にある茶室「毘沙門堂・浄楽亭」。@washizukamiさんが、先程教わった(盗み見た?)方法でにじり口から茶室に入ろうと試みるも、鍵がかかっていて戸は開きませんでした。

庭園内の茶室「翠庵・明月軒」の床下の猫

庭園内の茶室「翠庵・明月軒」の床下の猫

庭園内には全部で4つの茶室があります。そのうちの「翠庵・明月軒」の床下では、猫が無防備に寝ていました。これだけ暑いと、屋根の上に登る気力もなく、日陰でゴロ寝が一番涼しい、というところでしょうか。ちなみに、庭園内の茶室は有料で使用することができます。茶会のみならず、会食にも使えるようですよ。

緑豊かな庭園を満喫して、「畠山記念館」を後にします。帰りは、五反田駅まで歩きました。駅前のエクセルシールカフェで歓談です。

まずはお互いの自己紹介。
@washizukamiさんは「教育のことなら何でもござれ」の企業にお勤めの傍ら、給湯流の記事を連載している「東京ワッショイ」に参加したり、ご自身でイラストを書いたりされています。
@weiting_jpさんは大学院で建築を研究されています。人生の大半を日本で過ごしていますが、国籍は中国。日本の文化には昔から興味があったそうです。@weiting_jpさんの研究対象は学校建築で、そこから派生して、教育のあり方や方法論にも大きな興味を抱いているとのことです。
そして小生も、門外漢ながら教育には一方ならぬ関心があり、気付いたら話は教育が中心になっていました。

「あれ?お茶は?涼は?」その辺りはご愛嬌です。

Creative Commons. Some rights reserved by K.Suzuki.

Creative Commons. Some rights reserved by K.Suzuki.

@weiting_jpさんが、学校建築の慣習や傾向について語ってくれました。

例えば、校舎は必ず窓が南向きになるように建てられていて、保健室は必ず校庭に面した1階にあり、救急車が横付けできるようになっているんだそうです。

最近の傾向としては、教室と廊下の間に壁がない校舎が増えています。そんな作りでは生徒が抜け出し放題ではないかという気もしますが、教室を開放的にすることで、教師同士の横の連携が取りやすくなり、教師の負担が軽減されたり、教室内の異変を外部から察知しやすくなり、いじめの発生を抑止したりする効果があるんだそうです。気になる抜け出しも、最初からこの形に慣れた生徒は、違和感なく授業に取り組むんだそうです。ふむふむ。

他にも、日本の教育機関とインターナショナル・スクールでの教育のあり方の違いや、最先端のICT教育事情についても語ってくれました。@washizukamiさんも、小学校での英語教育事情をはじめ、日本の教育現場の実態についていろいろと話してくれました。

そして図らずも、話題は、今日の「畠山記念館」で見た光景へと移ります。

今日の女の子の光景が象徴的だと思うんですよね。国際理解、グローバリゼーションの第一歩は、“自”を知ることから。誇りと敬意をもって、自分たちの暮らす地域・国・文化を理解することから始まるのだと思います。日本の文化を目の前に見せれば、興味を持って、もっと知りたいと思う子はもっと出てくるはずです。日本的なものを押し付けるということではなくて、世の中にいろいろあるものの一つとして、日本的なものも見せていく。そして、子供が自分の興味・関心にもとづいて、学ぶ対象を主体的に選んでいけるようにする。これからの教育に必要になってくるのは、そうした環境づくりではないかと思います。

とは、@washizukamiさんのお言葉です。綺麗にまとめてくださいました。

思えば、この日来られなくなってしまった給湯流の家元(仮)も、

茶道はもちろん、日本的なものに触れることもなく育ってしまいました。日本を知らずに育った「ロスト・ジェネレーションです。今から思えば、「ピアノ(のお稽古)の前に琴とか尺八を教えてくれよ!」って言いたいですよ。

と、ボヤいていました

ピアノやギターを否定する必要はありませんが、日本に生まれたにもかかわらず、日本の楽器、琴や尺八に触れずに育つ、というのは、確かに何かが倒錯しているように思います。

というわけで、「失われた日本」を取り戻すため、今後も日本文化を中心に「勝手に日曜美術館」を続けてまいります!近々第2弾も開催・告知予定ですので、今回来られなかった方は是非次回をお楽しみに!