屏風は3Dで楽しむものでした!学芸員が語る屏風絵の新しい魅力 ~出光美術館「屏風の世界―その変遷と展開―」展~ <後編>

「天神縁起尊意参内図屏風」室町時代 重要美術品 出光美術館蔵

「天神縁起尊意参内図屏風」室町時代 重要美術品 出光美術館蔵

前編に引き続き、出光美術館学芸員・出光佐千子さんに屏風のお話をうかがいます。

漫画やアニメとのつながり、最先端技術との融合の試みなど、現代にもつながるポイントをいろいろと教えていただきました。

前編を読む

アニメの原点!?一枚の絵で時間の流れを伝えるさまざま手法

――絵巻物が、漫画やアニメの制作手法に影響を及ぼしている、という話を聞いたことがあります。屏風が現代の漫画やアニメ、映像制作に影響を与えているというようなことはあるのでしょうか?

出光さん 直接的な影響についてはなかなかお答えするのが難しいのですが、屏風の中でも、絵巻物から題材を取ったものが多くあります。絵巻物は、絵と詞で時間の移ろいを読み進んでいくものですが、屏風は、一瞬の時間が一枚の絵に凝縮されていて、その分特徴的な部分がデフォルメされて描かれています。

例えば、「天神縁起尊意参内図屏風」(室町時代、重要美術品、ページトップの写真)は、北野天満宮の由緒を著した北野天神縁起絵巻から題材を取ったものです。

この場面は、菅原道真の祟りを鎮めるため、尊意というお坊さんが勅命で宮中に急ぎ向かっている様子を表しています。道中はものすごい雷雨で、賀茂川が荒れ狂って、牛車で渡る状態ではなかったのですが、尊意の法力によって賀茂川の水を開いて、そこを牛車が猛スピードで渡るという、絵巻の名場面の一つです。

この場面では、牛車のスピード感や動きを表すためにいくつかの表現上の工夫がされています。

一つが、牛車の車輪がタテ長に表現されていることです。これは、車輪が高速で回転すると車輪がつぶれて見える視覚効果を表現したものと考えられています。

二つ目が、車輪のスポークの間に、よく見るとうっすらと影のようなものが見えます。これは残像効果で、現代でも漫画やアニメに限らず、さまざまな映像で動きを表現する際に用いられている手法です。

そして三つ目が、車輪のスポークの中央に近い部分がぼかされているところです。これも、車輪の回転による残像効果の一種です。

――なるほど。現代人の感覚でも、直感的に理解できますし、何百年も前からこういう工夫がされていたとは、驚きですね。

出光美術館ロビーからの眺め。上から見る皇居は何とも壮観です。豊かな緑が、心を休めてくれます。これだけでも、行く価値はあると思います 。

出光美術館ロビーからの眺め。上から見る皇居は何とも壮観です。豊かな緑が、心を休めてくれます。これだけでも、行く価値はあると思います 。

屏風に有機EL組み込み!?最先端屏風いろいろ

――ちょっと視点を変えて、屏風の使い方について伺いたいと思います。当時の人々はどのように屏風を使っていたのでしょうか?

出光さん 時代によって用途は変わってきます。

屏風は、奈良時代に中国から風を防ぐ道具として伝えられました。当初は、宮廷の儀式で用いられていましたが、平安時代になると、貴族の邸宅として寝殿造が一般的になりました。寝殿造は壁がなく、部屋も一続きでしたので、開放的な空間を区切って、風や寒さを防ぐための調度として使われるようになります。

室町時代に入り、武家を中心に書院造の邸宅の様式が広まりました。そこでは、目的ごとに部屋の機能が分化し、座敷を飾るために屏風を使うことが多くなります。書斎に山水画を飾ったり、公式行事のようなハレの場には吉祥性の高い花鳥図を飾ったり、という具合です。襖絵や掛け軸と組み合わせていたことも、さまざまな資料から分かっています。

――屏風を現代の生活の中で使おうと思ったとき、どのような使い道が考えられるでしょうか?表現の手法や主題という点からも、現代ならではの屏風という観点でご意見をお聞かせください。

出光さん 日常生活の中に屏風があったら楽しいですよね。

屏風の使い方として、見られたくない部分を隠す、というのもありました。ですので、お客様が来たときに、散らかっていて見られたくない部分を隠すのに使うのも一つだと思います。もっとも、現代で屏風がある家というのは珍しいので、かえって見られたくない裏側まで見られてしまうかもしれませんが……(笑)。

今話題のスカイツリーの近くに、「屏風博物館」を併設されている表具屋さんがあります。今回の企画を行うにあたって、そちらに何度かお邪魔したのですが、最近では、外国の方のお土産として買われる方が多いようです。外国の方々が実際どのように屏風を使っているかは分かりませんが、私が実際に見て知っている例としては、屏風を一枚の大きな絵として、お部屋の壁に掛けている方がいました。

また、その表具屋さんでは、遊び心がある新しい屏風を開発されています。有機EL素子を組み込んだ照明のインテリア屏風を試作されたり、スピーカーを組み込んだ音の出る屏風を考案されたりしています。まだまだ実験段階のようですが、最先端技術と伝統的な屏風が結び付いて、新しい屏風が生まれる日も近いかもしれません。

――音や光が出る屏風は新しいですね。屏風のこれからの変化と、それが300年、400年後にどう評価されるかが楽しみですね。本日は、どうもありがとうございました。

文明の利器を駆使して、専用のメガネをかけて3Dを楽しむのもいいでしょうが、たまには、平面に立体を見ようとした、昔の人の知恵や想像力を感じながら、3Dの原点に触れてみるのもいかがでしょうか?

現代のアニメや映像制作に連なる日本の絵画表現が、あなたのインスピレーションを刺激してくれるかもしれませんよ。

「屏風の世界」展の開催は7月25日(日)まで。気になる人はお急ぎあれ。

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プロフィール
出光佐千子(出光美術館学芸員)

慶應義塾大学大学院(美学美術史)修了。博士(美術史)。
主に江戸時代の絵画史、とくに日本文人画が専門。池大雅から小杉放菴まで、近世から近代までの文人画(南画)を担当。
出光美術館 「日本の美・発見IV 屏風の世界 ―その変遷と展開―」
・期間:2010年6月12日(土)~7月25日(日)
・開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
・休館日:毎週月曜日(ただし、7月19日は開館します)
・入館料:一般1,000円/高・大生700円(団体20名以上各200円引)
中学生以下無料 (ただし保護者の同伴が必要です)
※障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です。
・電話:ハローダイヤル03-5777-8600(展覧会案内)