小枝でつくった愛らしい絵柄ハンコ 手書きのレターでなくてもぬくもりが伝わる?

伊藤さんの絵柄ハンコ

伊藤さんの絵柄ハンコ

東京は入谷。この下町に、ドウダンツツジ、茶の木、竹、桜、柿、といった木の枝で、一本一本風合いの違うハンコをつくる印章屋があります。木の種類や、部位によって、形や手ざわりもさまざま。
眠り猫やお地蔵様など、なんとも素朴な絵柄と名前が彫られます。
あなたの名前の彫り込まれた、遊び感覚のハンコを作ってみませんか?

押印してみるとわかる、素朴で愛らしい絵柄

押印してみるとわかる、素朴で愛らしい絵柄

職人が手作りした物の良さは、使いこなすほどわかるもの。手ざわり、品、ぬくもり、もちのよさなど、機械で大量生産された物が溢れる今の世の中では貴重です。けれど、テクノロジーの進化したこのご時世に、昔ながらの手作り品ばかりで生活できるかというと、これはなかなか難しい。伝統的な工芸品ともなると、値段もはるし、現代の生活に、なくても困らないものが多いのも事実です。そこには、今の時代にも通用する、新しい知恵が求められます。

伊藤印房は、昭和22年に開業した印章屋。店主であり印章職人でもある伊藤睦子さんは、亡き父、先代から店を引き継ぎ、象牙や石に名前を彫る印章彫刻の仕事を42年間やってきました。そんな伊藤さんが、10年ほど前から新しい試みとして始めたのが、小枝でつくる遊びハンコです。

木の種類によって形状がいろいろ

木の種類によって形状がいろいろ

きっかけは、ある箒の職人の「昔はお茶の木でハンコを作っていた」という言葉。新しいアイディアかと思ったところ、実は昔の形のリバイバルだったのです。伊藤さんは、早速、名前を彫ったハンコを木の枝で作ってみます。その後、ある注文がきっかけで、絵柄も入れたところ、少しずつ評判になっていきます。

材料になる小枝は、山梨にある持ち山で採ってきたものを、2~3年かけて乾燥させてから使います。このために木を切るわけではなく、間伐の際に不要になった枝を活用するのです。乾燥させた小枝の直径1~2cmほどの断面に、動物や人の顔、お地蔵さまなどさまざまな絵柄を彫り、注文に応じて名前を入れます。

ハンコになる材料の小枝

ハンコになる材料の小枝

絵柄のデザインは、ほとんどが伊藤さんのオリジナルですが、発注者の図案を元に彫ることもあるとか。会社のロゴや、レストランのマークを持ってくる人もいるそうです。すべて手で彫るので、同じ柄でもひとつひとつが微妙に違い、味があります。木も、柔かい感触だったり、堅い感じがしたりと、手にした時の趣きがそれぞれ。

柔かい感触だったり、堅い感じがしたりと、手にした時の趣きがそれぞれ

柔かい感触だったり、堅い感じがしたりと、手にした時の趣きがそれぞれ

絵柄もいろいろ

絵柄もいろいろ

一見、簡単につくれるように見えますが、ハンコに向く木はとても堅く、何十年も堅い石を彫り続けてきた伊藤さんの腕だからこそできる技。平成16年には、この小枝ハンコで、東京都の「東京マイスター」の知事賞を受賞されました。東京マイスターとは、都内の、優れた技能を持つ方に、東京都優秀技能者として知事が認定するものです。

印章職人の伊藤睦子さん

印章職人の伊藤睦子さん

伊藤さんは、一方で「江戸女職人の会」会長も務めます。古くからのやり方でものづくりをする職人の中には、新しい手法や試みを邪道と言う人もいるのだとか。日本人がもつ、工芸品をつくる技術は、貴重な財産。その技術を使って、現代でも日常的に使えるもの、使いたくなるものが、ちょっとした工夫で提供されるのであれば、それほど嬉しいことはないと思ったのでした。小枝ハンコは、そのひとつの答えかもしれません。

一方、消費者である私たちの意識も問われるところ。安価なものを次々に使い捨てるのではなく、いいもの、長持ちするものを見きわめて大切にする気持ちを持ち続けたいものです。