この映画はボリビアの自然と人々からの贈りもの-『パチャママの贈りもの』

(C)Dolphin Productions

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『パチャママの贈りもの』はニューヨーク在住の映画監督松下俊文が6年もの歳月をかけて完成させた初長編作品。ウユニ塩湖の近くに暮らす親子が辺境の地の人々に塩を届けるため3ヶ月のキャラバンに出かけるという物語だ。その旅路で13歳のコンドリはさまざまな風景や人々に出会い、初恋も経験する。今も先住民の伝統的な生活が残るボリビアの奥地を彼らとともに旅しているような気分になれるスローなロードムービー。

言いたいことはわかる。古きよき共同体精神、助け合いの心、思いやり。偶然出会った見知らぬ人同士でも無償で助け合うという心、助けられた人はまた別の人を助け、それが連鎖してゆくことにより自然に助け合うという関係が生まれる世界、それが文明からかけ離れた素朴な風景の中にある。それだけでこの作品の持つメッセージは明らかだ。

そしてさらには、侵略者に抵抗したトゥパク・カタリを讃える祭りがモチーフとなり、世の中の変化が助け合いの連鎖をつなぐキャラバンをなくしてしまおうとしていることが描かれる。このことが、西欧文明の影響がその古きよき共同体精神を変容させてしまっているということを意味しているのもまた明らかだ。

そして、ここに登場する人々が大切にする共同体社会は古きよき日本の地域共同体を思い起こさせ、ノスタルジーにも似た心地よさを醸し出す。その一方で、果てしなく広がる広大な風景や、チチャ酒、リャマ、キヌア、コカといった日本とは別世界を感じさせる要素も多く登場する。表面上は異なっていながらも根底の部分では共通する部分を持つという、人間として共感しやすい環境を作ってボリビアとボリビアの先住民のことを日本人に伝える。それが目的だとするならこの作品はストーリテリングにおいても、映像のつくりにおいても非常に優れた作品だということができるだろう。

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ただ、この作品にはさらにもうひとつの要素がある。それは超現実的世界だ。たとえば坑道内に突然現れる悪魔の像、夢という形で実を結ぶ神々の世界、人間に姿を変える鳥、それらがあらわすのはラテンアメリカ世界特有の現実と非現実(と西欧で呼ばれるもの)、この世界と死者の世界との連続性を表しているのだろう。その連続性はマジックリアリズムという形でラテンアメリカ特有の芸術/文化となっており、この映画もそのマジックリアリズムを引用している節があるのだが、その部分がうまく描かれているとはなかなか言いがたい。

まず、CGや画像処理の仕方は雑だし、表現されている超現実世界も夢や幻覚として処理できてしまう表現になっている。これでは、この超現実がケチュアやアイマラの人々にとっては現実と不可分であるということは観客には伝わらない。その部分が伝わらないと本当に豊穣な先住民の文化の根幹は伝わらないのではないだろうか? 人々が血が流れるまで殴りあうティンクという祭りの意味、それはその行為によってつながる人間の世界と神々の世界の関係をつかまないととらえることができないのではないか?

ボリビアと映画はなかなか結びつかないが、実は60年代から80年代にはウカマウ集団が盛んに活動し、その名を世界に広めていた。日本でも映画祭で上映されたり、特集上映が組まれたりしており、知っている人は知っている(が、ほとんどの人は知らない)存在となった。この作品の監督松下俊文もウカマウ集団のリーダー、ホルヘ・サンヒネスの活動に感銘を受け、ボリビアに彼を訪ねたという。

そのウカマウ集団もまた先住民たちをテーマとし、先住民自身を出演者としてセミ・ドキュメンタリーを制作した。その点でこの作品と重なる部分が非常に大きい。そして、ウカマウ集団はラテンアメリカ的マジックリアリズムを大胆に利用し、現実と非現実の境を取り払い、どこか幻想的でありながらリアルでもある世界を描いた。まあ、彼らの映画は社会的な意図をもって作られた映画でもあるので、手放しに賞賛することはできないのだが、彼らの映画を見ると現実と超現実の境が曖昧であったり、時間の流れ方が欧米とは異なったりする南アメリカ先住民の心のありようを覗き込んだような気がしたものだ。

この作品も日本人にわかりやすいボリビア理解から一歩進んだ文化の深みのようなものを伝えてくれれば素晴らしい作品になったのではないか。わかりやすいのもいいが、複雑でわかりにくいところにこそ真実は隠されているのだから。

もちろん、松下俊文さんの映画作りはこれで終わりではないだろうから次の作品に期待したいし、この作品に刺激を受けた私たち自身がもっとボリビアや南米のことに興味を持ち、それを探求しあるいは現地に赴けばいいのだ。この映画はそのように未知の世界に目を向けるきっかけになる作品だと思う。

『パチャママの贈りもの』 El regalo de la Pachamama
監督:松下俊文
音楽:ルスミラ・カルピオ
2009年、日本=ボリビア=アメリカ合作、102分
12月19日よりお正月ロードショー