ISSUE

8 years ago - 2008.01.22

SHARES  

マイクロソフトを辞めて1000万人の子どもたちに学びの場を作る男の話

Room to Read(ルームトゥリード)

Room to Read(ルームトゥリード)

家にお金がないから、という理由だけで学校にいけない子どもが世界には8億人いると言われている。そのような子どもたちに、教育の機会を与え、社会的、経済的自立を支援し、貧困からの脱却を目指すNPOがRoom to Read(ルームトゥリード)だ。「子どもの教育から世界が変わる」と掲げる同団体は、たった一人のビジネスマンのアイディアからはじまった。キャリヤや高年収、恋人、裕福な暮らしを手放してまでも、途上国に図書館や学校を作ろうと決意し、Room to Readを立ち上げ、「マイクロソフトでは出逢えなかった天職」(原題:Leaving Microsoft To Change the World)の著者、ジョン・ウッドに話を聞いた。その様子を全2回のインタビューでお届けする。
全ての写真のコピーライトは、Room to Readに帰属します。

「読まなくなった本をネパールの小学校に寄付してください」と友人達に呼びかけたメールにはじまり、1999年ジョン・ウッドによってアメリカ・サンフランシスコで設立されたRoom to Readは、恵まれない子どもたちに本を贈るという小さな慈善活動としてスタートを切った。その後、「子どもの教育から世界が変わる」をミッションに掲げ、今日までに444校の学校と5,000ヶ所の図書館を開設、4万冊の図書を寄贈し、教育のインフラをつくるという一大プロジェクトに成長した。現在カンボジア、 インド、ラオス、ネパール、スリランカ、ベトナム、南アフリカ等の国々で活動している。Room to Readの設立について、ジョンは次のように語っている。

僕の両親は、僕が幼いうちから教育の大切さや本を読むことの面白さを教えてくれた。家では、祖母や母、姉が本を読み聞かせてくれ、おとぎ話や、冒険物語り、偉人の伝記、とにかくたくさん本を読んだね。いまでも本が大好きだから、最高の休暇の過ごし方といえば、例えばバリで好きな本を5,6冊もって行ってのんびり読むことかな。忙しい毎日の現実から解放される幸せなひとときだよ。そんな本好きの子ども時代を過ごしたから、マイクロソフト在職中に長期休暇で訪れたネパールで、「本のない図書館」(正確には、貴重な数冊の本を子どもたちが傷つけないよう、鍵のついた戸棚の中に閉まってあった)に出逢ったときは、衝撃だった。だって、本を読んで世界や人生を学んできた僕にとって、本が読みたくても、買うお金がないから本を読めない子どもがいるという目の前の現実は、信じられないことだった。だから、僕が子どもの頃に味わった本の世界を、この子たちにも見せてあげたいと思って、本を贈ろうと思い立ったんだ。でも、そのことがきっかけで、マイクロソフトを辞めて無職になって、世界中の恵まれない子どもたちに本を届け、学びの場を作るという壮大なプロジェクトに取り組むことになる、なんてことは思ってもみなかったけどね(笑)。

2020年までに1000万人の子どもたちに学びの場をつくる

Room to Readの事業、途上国の子どもたちのために学校や図書館を作るということは、別に目新しいものではない。本著の中でジョンが書いているように、そんな活動をやっている人間は、世の中にたくさんいる。では、何故、Room to Readはここまで注目を集めているのだろうか。そして、どうやって、経済的支援を取り付け、何百、何千という学校や図書館を短期間に作ることができたのか。それは、単に、ジョンにマイクロソフトという大企業の幹部まで昇進したビジネススキルのみならず、変革を起こすために大きく考え、壮大なビジョンを掲げ、それを実現するための戦略的で革新的なロジックがあったからだ。ジョンが描くビジョンとは、次のようなものだ。

国連の推計によると、世界で読み書きのできない人が推計8億5千万人(世界人口65億人だから8人に1人の割合)、うち3分の2が女性。また、世界人口が2050年には90億人に増加すると言われているなかで、アメリカ前大統領ビル・クリントンが2005年に立ち上げたClinton Global Initiativeでも、「人口増加の主たる原因は、女性の就学率の低さだ」といわれている。その影響は悲惨なかたちで次世代に受け継がれる。家で子どもに本を読み聞かせるのは、もっぱら女性だからだ。母親が教育を受けていれば、次の世代に受け継がれる確率がとても高い。しかし、途上国では、多くの女児が学校に行かれないため、16歳頃には妊娠し、6~8人の子どもを産む。そして、生まれてきた子どもは、HIVに感染していたり、母親が教育を受けていないという不利益を背負って人生を始めている。小学校に入学する年齢の子どものうち、1億人以上が学校に行っていないんだ。これらの子どもにチャンスは二度とやってこない。1年後や10年後では遅すぎる。Room to Readのミッションは、2020年までに1000万人の子どもたちに教育の場をつくること。もし、世界の富の数パーセントが、子どもたちの教育のために使われたとしら、世界はもっともっとよくなると思わないかい?

実際、Room to Readでは、本の寄贈や学校の建設のみならず、男女の教育格差をなくすことが、よりフェアでハッピーな社会の種を蒔くことにつながるとして、3,448人の女子児童に長期の奨学金を提供している(公式サイトより)。年間250ドルもあれば、学費のほか、制服二着、靴二足、通学鞄、学用品、健康保険と通学用の自転車を支給できるのだ。教育を受けた少女たちは、社会的な力と自信を身につけ、経済的な自立が可能となる。そして、ひとりの少女の人生を変えることは、家族や地域社会に影響を与え、国、さらに次世代の社会と経済をよりよくすることにつながっていく。教育を通して、貧困が次の貧困を生むというサイクルを断ち切ろうとしているのだ。

子どもたちにとって本はたくさんのことを教えてくれるもの

NPO業界のマイクロソフトを目指す

ビジョンを実現するためにジョンは、これまでのNPO業界では見られなかった革新的な手法を用いている。それは、Room to Readの事業を積極的に売り込み、寄付者に対して素直に「お金をください」と言うことと、その結果を数字でスピーディーに報告して、寄付と成果の因果関係を明らかにすることだ。その理由について、ジョンは次のように語っている。

Room to Readを差別化するひとつの方法として、僕が考えたのは、実際の成果を報告し、新しい情報をこまめに伝えることだ。「やろうと思っていること」を話すのではなく、やってきたことを話そう。新しくできた学校の数、寄付した本の数、奨学金を受け取っている少女の数。全ての組織は、営利団体であれ、非営利であれ、判断基準を提示し、その結果を例えばメールの署名として報告するべきだ。1日に何百回と自分の結果を報告することほど、やる気を奮い立たせることはない。具体的な進捗を報告できず、報告する数が増えなければ、寄付者はどうしてだろうと思い、寄付をやめる人もいるだろう。寄付をする選択肢は数え切れないほどある。彼らがRoom to Readを選ぶ理由が必要なのだ。もし自分たちの活動が5年遅れたら、5歳の子供は10歳になってしまう。そうなれば、彼は学校で学ぶ機会を永遠に失ってしまう。

NPO業界のマイクロソフトを目指す同団体では、組織としての運営を経済的に確立させながら、NPOとしての理想を実現させている。その証拠に、同団体は活動費として、設立から8年で約4,200万ドル(約50億円)という多額の寄付金を集めている。スポンサーには、マイクロソフトをはじめ、ゴールドマンサックスアクセンチュアなどの大企業が名を連ねるほか、ベンチャーキャピタリストや、裕福なビジネスマンなどたくさんの人の寄付や出資によって支えられている。寄付者からみれば少額の投資であっても(例えば、8,000ドルあれば、ネパールに学校を1つ建てることができ、10セントあればベトナムの子どもがコンピューターの講習を1時間受けられる)、子どもたちにとっては、教育を受けたことでその後の人生が大きく変わってしまうほど価値のある贈り物なのだ。

建設された学校の前で喜ぶ現地の子どもたち

しかし、誰もがジョンのように、世界を変えるために仕事を辞めるわけにはいかない。それでも、世界には、幸いにして人より少し裕福になった人たちが、自分の才能と富と情熱を社会のために役立てて、人生にもっと意味をもたせたいと思っている人がたくさんいる。そんな人たちの願いを叶え、想いがぎゅっとつまった場所がRoom to Readだ。次回は、Room to Read 成長の原動力でもあり、「一人ひとりが世界を変える」革新的なビジネスモデルについてお届けする。

*ジョン・ウッドへのインタビューは、ヒトと社会と地球を大事にするビジネス情報誌オルタナの最新号、No.6と、環境映像専門のグローバルメディア green tv.Japanでも紹介中。greenz.jpを含めた3社によるグリーンメディアの初コラボレーションとして実現しました。

ジョン・ウッド プロフィール

John Wood

ケロッグ経営大学院でMBAを取得後、数年の銀行勤務を経て、1991年にマイクロソフトに入社。30代前半で国際部門の要職に就き、中国No.2のポストまで昇進したが、休暇で訪れたネパールでの出来事がきっかけとなり、人生の進路を転換し、途上国の子どもに教育という贈り物を届け貧困のサイクルを断ち切ることを、自分のライフワークにすることを決める。1999年末にRoom to Read(ルーム・トゥ・リード)を設立。ネパール、インド、スリランカ,カンボジア、ラオス、ベトナム、南アフリカ等で識字率向上のために活動している。雑誌TIMEが選ぶ「アジアのベストヒーロー2004」に選出されるなど社会起業家として数々の賞を受賞している。

Leaving Microsoft to Change the World

著書「マイクロソフトでは出逢えなかった天職。僕はこうして社会起業家になった」(原題:『Leaving Microsoft to Change the World: An Entrepreneur’s Odyssey to Educate the World’s Children』は、15言語に翻訳されている。

writer ライターリスト

松原広美

松原広美(Hiromi MATSUBARA)。greenz.jp ファウンダー、コミュニティディレクター。株式会社ビオピオ取締役。千葉県浦安市出身。1978年生まれ。小学校時代をロンドン、大学1年間をマイアミで過ごす。大学卒業後、GE Capital (ゼネラルエレクトリック社の金融部門)にて「リーダーシップ開発育成プログラム」のトレーニーとして入社し、法人金融営業、マーケティング、広報、CSRのイベント企画、運営を経験。06年、NPO法人BeGood Cafeに転職し、「greenz.jp」の営業プロデューサーとして立ち上げにかかわる。その後独立し、07年グリーンズLLP設立、08年株式会社ビオピオ設立、代表取締役に就任。greenz.jp のお母さん的役として、組織の経営企画、営業戦略、海外渉外、環境や社会問題をテーマにしたイベントプロデュースを手がける。学生時代は、体育会系ウィンドサーファー、いまも毎週末のサーフィンは欠かせないほど海がライフスタイルの中心にある。だから、将来の夢は、「海辺のサステナブルコミュニティの村長!」を目指して。現在は半東京半房総の2地域居住を実践中。 個人ブログ:http://greenz.jp/hiromi

AD

infoグリーンズからのお知らせ