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8 years ago - 2007.12.21

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パタゴニアは誰のもの? イヴォン・シュイナードが語る企業のカタチ

創業当時のシュイナード・イクイップメント社の前で。
写真提供パタゴニア、(c)Copyright トム・フロスト

高い製品品質と先進的な環境問題への取り組みで知られるアウトドア・ブランド、パタゴニア社を創業し、わずか半世紀の間に世界的ブランドに育てた創業者兼オーナー、イヴォン・シュイナードの経営哲学はビジネスの常識を覆すユニークなものばかりだ。そんな彼の自伝的経営書「社員をサーフィン行かせよう!」(東洋経済新報社)が2007年3月、日本でも刊行となった。出版を記念して来日したイヴォンは、パタゴニアの歴史とビジョンについて、全てにおいて追求する「シンプルさ」について、本書のエピソードを交えながら、ゆっくりと語ってくれた。その様子を前編・後編の連載でお届けする。

(*以下、注釈がある場合を除き、引用は、2007年3月に刊行されたイヴォン・シュイナードの自伝的経営書「社員をサーフィン行かせよう!」(東洋経済新報社)(原題:Let my people go surfing)から、及び2007年5月15日東京で開催されたパタゴニア日本支社主催シンポジウム、「地球に対するビジネスの責任」でのイヴォン自身の発言からとします)

パタゴニアの誕生

パタゴニアは、古くから経営のあらゆる面において、自然環境に徹底して配慮し、その環境と社会に対する真摯な企業姿勢で有名だ。企業の利益追求と環境問題への取り組みという、一見相反する2つのことの両立をパタゴニアはどうやって確立していったのだろうか。その出発点は、1960年代に遡る。

1966年、もとは食肉加工場だったという粗末なボイラー室を作業場にしつらえて、自分や仲間が求める高品質のクライミング道具の製造を行なっていたイヴォン。それが、パタゴニアの前身、「シュイナード・イクイップメント社」だ。出来上がった手製の道具は、他社製品に比べシンプルなデザインでありながらも、軽くて頑丈、しかも多用途で、1970年までには同社は、米国最大のクライミング・ギアのサプライヤーとなるまでに成長した。

業務拡大につき社員も急増!
写真提供パタゴニア、(c)Copyright トム・フロスト

自然を破壊してまでビジネスを継続させることに会社としての存在意義はない

しかし、全米のクライミング人気の加熱に伴って、人気ルートの岩壁は何度も登攀の対象となり、絶え間なく打ち込まれ、引き抜かれるピトンのせいで、もろい岩肌は深刻なダメージを重ねていった。この環境被害を目の当たりにし、またその原因をつくったのが、他でもない自らが作った道具であることに気がついたイヴォンは、ピトンの製造から手を引くことを決断した。ビジネスの中核事業であり成長分野であったピトン製造の中止は、経営的に大きな損失となることは明らかだったが、自然を破壊してまでビジネスを継続させることに会社としての存在意義はなかった。このイヴォン自身の経験がきっかけとなり、その後パタゴニアは、「企業は、程度の差はあれ、みな環境汚染者である。そのことに気がついた時に正しい行動をとることが重要だ」との見解から、長年にわたって歩むことになる環境問題への取り組みの大きな一歩を踏み出したことになる。

死んだ地球からは利益は生まれない

イヴォンは、およそ1年の半分は会社にいない。世界中の自然を渡り歩き、サーフィン、フライフィッシング、クライミングを楽しんでいる。それを、独自のMBAスタイルの経営、すなわち”Management By Absense(不在による経営)“とよび、ヒマラヤや南米の極限環境で自社製品を身につけてフィールドテストを行い、製品の改良点や新しいアイディアを持ち帰るのが、彼の任務であり、何よりの楽しみである。イヴォンは、既存のギアに満足することなく、自らが実験台となり、シンプル性、軽量性、耐久性、機能性のあらゆる面を探求し、開発し、品質世界一のモノ作りを目指している。しかし、ネパールやポリネシア、アフリカなどなじみの場所にサーフィンやクライミングに出かけていっては、数年前訪れた時から大きく変貌した自然界の姿を目の当たりにした。はじめは、ワクワクしながら新製品のアイディアを会社に持ち帰えっていたイヴォンだが、そのうち、悲痛な気持ちで環境と社会の荒廃に関する話題を持ち帰ることが多くなっていった。

自然界の荒廃が進む間も、パタゴニアは発展を続けていた。80年代半ばから1990年にかけて、同社は急成長し、いくつもの事業分野で成功を収め、売上は2千万ドルから1億ドルへと跳ね上がった。このまま拡大路線を歩み続けるかのようだった。しかし、成長企業にありがちな失敗を同社も犯し、事業を拡大すればするほど、社員を雇えば雇うほど、資源や能力の限界を超え、経営が持続不可能に陥っていた。そこで、イヴォンは初心に帰り、社員一人ひとりに対して、自分たちの会社が行うビジネスの意味、環境に対する企業の使命と価値観を説いた。

社員を集めてパタゴニアの使命を説くイヴォン
写真提供パタゴニア

そうした対話のなかで、同社のミッションステートメントが確立された。それは、利益の追求は第一目的ではなく、「最高の製品をつくり、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」ことだという。また、イヴォン自身も、会社の使命、企業のあり方について、こう語っている。

「仲間のためにギアを作ることで事業を始めたアルピニストの私が、自身を『ビジネスマン』と意識するようになって以来、ビジネスとは一体誰に対して責任があるのかということに悩み、それが株主にでも、顧客にでも、あるいは社員にでもないという結論にようやく達した。ビジネスは根本的に資源元に対して責任がある。自然保護論者のデイビット・ブラウワーが『死んだ地球からは利益は生まれない』と言ったように、健康な地球がなければ株主も、顧客も、社員も存在しないのだ。」

環境に配慮したモノ作り

最高の製品をつくり、環境に与える不必要な悪影響を最小限におさえる、というミッションにおいて、その代表的とも言える事例をいくつか紹介しよう。たとえば、アメリカで初めてカタログに再生紙をつかったのは、同社である。また、衣料品メーカーとして初めて清涼飲料水のペットボトルから再生した繊維からフリースを作ったり、世界で初めてコットン衣料の全てを100%有機栽培されたコットンに切り替えたのも同社である。このように、原材料の調達から製造、その回収まで、最高のモノ作りにおけるプロセスに、環境への配慮がしっかり組み込まれているのだ。

また、イヴォンは2001年、草の根環境保護グループを主な対象として、売上高の1%以上を寄付する企業同盟「1% For The Planet(地球のための1%)」を共同設立し、自然環境の保護及び回復を精力的に推進する、さまざまな環境グループ、NGOを支援している(現在、700団体が加盟し、これまでの寄付額は、2,100万ドルにのぼる!)。この取り組みについて、イヴォンは、こう語っている。「ビジネスを行うことで、資源を使い減らし、環境問題の一因になっていることへの罪悪感から、自らが課した「地球への税金」としてとらえれば、たいした金額ではない。むしろ、これは企業として地球へのせめてもの償いであり、責任、使命でもある」。

クライマー、サーファー、カヤッカー、スキーヤーであるイヴォンが、自然と親しむことから生まれた環境に責任を持つ姿勢を、パタゴニアの経営理念に反映させ、社員や取引先、お客様とも共有したがったのは、自然な成り行きだったといえるだろう。慣習にとらわれず、常に新しいことにチェレンジするパタゴニアの精神は、そのビジネススタイルだけにとどまらない。パタゴニアで働く社員たちこそ、自由で、柔軟で、そのワーク・スタイルは枠にはまらないものなのだ。

イヴォン・シュイナード プロフィール
イヴォン・シュイナード 製品品質と環境を重視する経営で知られる米国アウトドア衣料メーカー、パタゴニア社の創業者/オーナー。アメリカのみならず、ヨーロッパ、日本でもビジネスを展開する一方で、60歳を過ぎた今でも、サーフィンやフライフィッシングなど、多くの時間を自然とともに過ごしている。

writer ライターリスト

松原広美

松原広美(Hiromi MATSUBARA)。greenz.jp ファウンダー、コミュニティディレクター。株式会社ビオピオ取締役。千葉県浦安市出身。1978年生まれ。小学校時代をロンドン、大学1年間をマイアミで過ごす。大学卒業後、GE Capital (ゼネラルエレクトリック社の金融部門)にて「リーダーシップ開発育成プログラム」のトレーニーとして入社し、法人金融営業、マーケティング、広報、CSRのイベント企画、運営を経験。06年、NPO法人BeGood Cafeに転職し、「greenz.jp」の営業プロデューサーとして立ち上げにかかわる。その後独立し、07年グリーンズLLP設立、08年株式会社ビオピオ設立、代表取締役に就任。greenz.jp のお母さん的役として、組織の経営企画、営業戦略、海外渉外、環境や社会問題をテーマにしたイベントプロデュースを手がける。学生時代は、体育会系ウィンドサーファー、いまも毎週末のサーフィンは欠かせないほど海がライフスタイルの中心にある。だから、将来の夢は、「海辺のサステナブルコミュニティの村長!」を目指して。現在は半東京半房総の2地域居住を実践中。 個人ブログ:http://greenz.jp/hiromi

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