greenz people限定『生きる、を耕す本』が完成!今入会すると「いかしあうデザインカード」もプレゼント!→

greenz people ロゴ

アーミッシュのお宅を訪ねて

プレーンピープル・アーミッシュの暮らしとは?

ここアメリカに引っ越すまでは、「アーミッシュ」という言葉さえ知らなかった。ある時、忙しく車の行き交う公道の端を、馬車で移動する人々を見て初めてその存在を知った。

プレーンピープル(Plain People)と呼ばれるアーミッシュ(Amish)の人々は、ペンシルバニア州とオハイオ州に、大きなコミュニティを持つが、実際にはアメリカの二十数州とカナダの一部の地域に、大小さまざまなコミュニティで点在し、その人口は15万人とも20万人とも言われている。

ミシガン州の中央部に位置する我が家の近所にも小さなコミュニティがあり、スーパーなどで、独特のアーミッシュルックの人々を見かけることがある。日本の皆さんの中にはハリソンフォード主演の映画『刑事ジョンブック・目撃者』で、その存在を知った方も多いのではないだろうか?

彼らは、もともと、17世紀に宗教的迫害を逃れて来たドイツからの移民でキリスト教プロテスタントの異端、メノナイトの一派だが、文明の最先端とも言える現代のアメリカ社会で、まるで文明を拒否しているかのような質素な暮らしをしていることで知られている。

アーミッシュの生活様式を一言で語ることは難しいが、簡単に言うと、子どもたちは独自の学校で教育し、電気を使わず、車に乗らないといった暮らしを実践している。教育はアーミッシュとして生きるための必要最低限の勉強を八年生まで受けるのみ。電気を使わないため、テレビやラジオなどの情報ソースはない。自動車の代わりはバギーと呼ばれる黒塗りの馬車を使う。多くが農場を営み、チーズやバターなどの自然食品を生産販売して生活収入を得ている。また彼らの作るキルトや家具は質が高くたいへん有名である。

ここまで説明すると、厳しい戒律を守って暮らすアーミッシュの人々は、さぞかし、厳しい環境の下で不便な暮らしをしているのだろうと思われるかもしれない。実際、「今も300年前と変わらない暮らし」などという言葉で紹介されているのを目にするので、私自身も、アーミッシュの人々は原始生活をしていると思っていたのだが、先日、縁あり、隣町に住むアーミッシュの家庭を二軒、訪問する機会に恵まれ、実際にお話をしてみたら、その印象は大きく変わってしまった。

「アーミッシュというだけで、皆さん引いてしまうみたいだけど、怖がらないでね。私たちも普通の人間なんだから。ハッハッハッ」

と笑って迎えてくれたご主人は、お宅の隣にある工房でアーミッシュ家具を作る職人さん。アーミッシュの家庭や学校では、独特のドイツ語がメインの言葉だそうで、奥さんは英語は苦手だと笑いながらも、自慢のキッチンを見せてくれた。

電気を使わないと聞いたので、さぞかし不便な暮らしを強いられているのかと思いきや、拝見して驚いてしまった。照明、冷蔵庫、調理、暖房は全てガスで賄われているものの、快適そのもの。家の中の家具は、すべてご主人の手作りだという。シンプルながらも自分たちが暮らしやすいように、とっても工夫されていて、こんな家に住みたいと、うっとりするようなぬくもりの感じられるお宅だった。

reporteditleft_1764
アーミッシュのご家庭を訪問
電気は使わないが照明もしっかりついている

彼らは、文明の利器全てを否定しているわけではないのだ。さすがに、ガスのテレビ、ラジオ、コンピューターなどはないので結果、情報はかなり拒絶していると言えるだろう。ご主人が、アーミッシュ同士の絆は強く、お互いに助け合うので、必要以上の便利はなくても困らないと説明してくれた。しかし電気を受け入れることで押し寄せる情報の嵐は警戒すると言う。彼らは宗教的な背景からそれを実践しているわけだが、そこから生まれるゆとりと心のゆたかさが、私にはしっかり理解できた。

実は、我が家はアメリカに来る前、溢れる情報やモノにウンザリし、シンプルライフに挑戦したくて、南の島に移住した。アーミッシュほどではないにしろ、テレビを見ることもなく、電子レンジもコーヒーメーカーも掃除機も洗濯機もない暮らしを四年間体験した。時間にさえ追われなければ、便利機器がないことなどは、大した不便ではなかった。そして情報に振り回されないことで、欲望との葛藤は失せ、気持も穏やかになれるということを身をもって実感した。

そんな経験を持つ私にとっては、アーミッシュのライフスタイルは、けっして受け入れがたいと言う感覚はなく、それどころか、ご主人との会話には、うなずくことが多くて楽しくてしょうがなかった。悲しいかな、宗教というお膳立てのない私の場合は、アメリカに住みながら、質素に生きることはできなくなってしまった。スイッチポンで洗濯、乾燥し、余った時間で、コンピューターの画面を見つめる便利に感謝しながらも、家族六人分の洗濯物を手洗いし、青空を仰ぎながらパンパンしていた日々を懐かしむ今日この頃である。

椰子ノ木やほい

アメリカ・ミシガン州在住フリーライター
http://gogo.chips.jp/