夜の海

夜の海

夜、じっとしていられなくなることが、しばしばある。
北でいじめられ、すさんだ印象の北東の秋風が、
気まぐれで、柔らかな南西風と交わる瞬間。
あるいは、大潮の影響で身体中の血液が行ったり来たりする
満月の晩などは、特にそうだ。

口幅ったい言い方だが、自分のなかの「野生」が
じっとしていてはいけない、歩き出せ! 歩き続けよ!
としきりに叫んでいる。

その声に毎度、毎度、まじめに答えるつもりも時間もないが、
天気が穏やかだったりすると、素直に従うこともある。
相模湾を眼下に見下ろし、ヤビツ峠から大山へと抜ける
丹沢の尾根道。
伊豆・真鶴半島のスダジイの遊歩道。
春先の波打ち際で夜光虫の大性交を目撃し、
森の奥深くではまるで座布団がとんでくるような
ムササビの縄張り争いに遭遇する。

遠い記憶と、今在るという、現実の狭間を行きつ戻りつしながら
1時間、ときには2時間、サーモスのお茶とチーズを
齧りながらひたすら歩くわけだ。
ボクはその同時多発な生理現象を「狼ウォーク」と呼んでいる。

ボクらが居酒屋でシメサバをつついて、芋焼酎を飲んでいたり、
クラブで朝まで踊っている間にも、夜の闇の中では、
人間以外の動物や物の怪が活発に活動している。
やっぱり、地球という惑星は闇から生まれたのです。