greenz people限定『生きる、を耕す本』が完成!今入会すると「いかしあうデザインカード」もプレゼント!→

greenz people ロゴ

松田創さん(明鏡止水)

ソーシャルデザイン=地球全体を見据えた、人と仕事のデザインを目指して
トップページでサステナブルな未来を感じさせるアートワークをフィーチャーしている『グリーンデザイナー』。desktopographyに続いては松田創さん(明鏡止水)です。ご自身が山々を歩き、撮りためた孤高かつ雄大な作品。どうやって成り立ったのかすら想像も及ばない自然のランドスケープは、美的であると同時に、人間の存在の再認識を考えさせられます。

松田さんは、90年代初頭よりデザイナーとして数多くさまざまな開発を手がけた後に、98年より経済活動とは一線を引いた作家活動を『明鏡止水』という名義でスタート。“日本文化と自然”をテーマにした作品は、日本に生きる者に風土の本質を問いただし、海外での評価も高く、現在日本を代表する力強いアーチストとして広く認識されています。

現在、最も信頼し、尊敬できる仲間と共に、循環型システムデザインを通して日本をきれいにすることを目標とした、会社法人のイナ・デザインコンサルティングシステムズを設立。プロジェクトに合わせ、幅広い各界のトップとともに目的を実現させる為に、同じく作家として世界で活動しつつ、日本をテーマにクリエイティブディレクターとして活躍しているハミル・アキと手を組んでいます。

イナの特性としては、これまでのストイックな業界から、世界発信の可能なアートや娯楽を通じた遊びや文化などの提案、集客力のあるイベントプランニング、商品開発等、若者やデザインなどにこだわりのあるエッジのある層への伝達能力があること。その表現伝達方法の独自性と経済的な成功率は、それぞれの個で築いてきた作家活動の独自性が最大限に反映されています。

このイナを軸に、サステナブルな社会におけるクリエイターの可能性を探るCSPプロジェクトなど、筋の通った長期的な社会的活動を仕掛けている松田さんは、その多岐にわたる活動を『ソーシャルデザイン』と呼びます。その鋭い視点のその先に、何が見えているのか、以下、たくさんの言葉をいただいた特別ロングインタビューをどうそ!

「自然から人間としての役割を学ぶ」
作家からソーシャルデザイナーへ
「イナ」 – 循環型システムデザインを通して日本をきれいにする
「デザイナーは現場から変えていける」クリエーターの社会的可能性

「自然から人間としての役割を学ぶ」

gd_iwa2

兼松:
僕が松田さんの作品に触れたのは、『明鏡止水』の活動を始めてからでした。特に屋久島のフィールドレコーディングや映像を集めた『finaldrop』は、歴史を語るスギの造形、苔の蒸す森々、巨大な滝の壮大なパースペクティブが圧倒的で、僕の人生の決定的なターニングポイントとなった屋久島への旅を強く動機付けたことを覚えています。

今回ご提供いただいたアートワークも、人間の存在を改めて考え直させる壮大なスケールの風景です。深い山に分け入って、自分の足で自然を直に知ったことは、松田さんのデザインにどのようにフィードバックされましたか?

松田:
コミニケーションツールとしてのデザインの意味の再認識ができました。また、完璧な自然界のデザインを人間社会や都市に向けて再構築することに対し、自分なりの導きを得ました。

東京のような人間によって作りあげられた“人のための都市環境”と、原生林などの地球が長い時間をかけて生み出した“あらゆる生命に平等な自然環境”。その両極を体験し、比較することによって、現代に『何が大事なものか』という、ゆるぎない価値観や基準というものが、導きの軸となるものです。

兼松:
今、都市では何が起こっているのでしょうか?

松田:
モノや行動の“価値”が、表面的な演出や金銭的な豊さなどに誤った基準に変換して消費を煽った結果、そこに本来の精神的な“美しさ”が欠けてしまっていると思います。

それは、デザインと密接な広告媒体やメディアに例えると、コンビニの商品や視聴率の高い時間帯のメディアなど、今の私たちの消費を煽るだけのニーズや価値観を問い直したときに生まれる疑問でもあります。お金でない価値の極端な欠落というか。

『文化』の持つ本来の躍動感が薄れている。これは『バランスという美しさ』の価値基準が判断力を失うと共に起こっている問題のひとつだと思います。自然から学んだことは、自分自身も大きな自然そのもの、もしくは一部だということの認識と、人間としての役割です。

作家からソーシャルデザイナーへ

gd_ki

兼松:
クリエイティブディレクターから作家活動へ、そして、新たにソーシャルデザイナーへ。松田さんの活動の広がりは、今さまざまな疑問を抱えながら活動しているデザイナーにとって、とても示唆的だと思います。ご自身の活動を振り返っていただけますか?

松田:
デザイナーとして様々なプロジェクトに関わりましたが、この数年はあらゆる場面で限界を感じました。従来の常識や価値観にとらわれたクリエイションでは、僕は、今までのデザイナーとしての職業では、何も生み出さないという結論に達しています。
時代、または、プロジェクトによって活動の内容は変化してきましたが、基本的には、開発を中心としたプロジェクトの立ち上げが主でした。依頼内容としては、現代的なデザイン性を求められる書籍の出版、雑誌編集、WEB、アパレルの企画/開発、プロダクツ開発、映像制作、撮影、執筆など、イメージヴィジュアルに関連する様々な分野の依頼があります。また、広告制作からはじまる、コミニケーションツールの開発、販売アプリケーションの開発、PRツールの開発、イベントの企画や制作まで、情報伝達に関連する制作などです。

しかし、開発の現場においては、海外からの輸入文化やファッションを消化せずに、そのまますぐに取り入れる価値観、他の商品からのデザインの流用、他者のオリジナル作品のコピーなどが当たりまえの感覚や、消費だけを煽る広告業界やコスト重視の開発の現場に、道徳心や価値観を問うクライアントが多く、デザイナーの役割やモノ作りの意味を考える機会が多かったと思います。

gd_iwa

兼松:
作家活動はなぜ始めたのでしょうか?

松田:
先ほど話したコピーではないオリジナルのクリエイションを目的に、コマーシャル業界とは、いっさい距離をおいた創作活動を『明鏡止水』という名義で開始しました。活動の中心となったのは、日本各地の山や森めぐりです。なかでも屋久島とは相性が良かったので、時間があれば今でも足を運びます。

兼松:
そして最近はソーシャルデザイナーという肩書きで活動していますね。どのような意味をこめているのでしょうか。

松田:
地球全体を見据えた、人と仕事のデザインだと考えています。ただ、プロジェクトの目的を達成するという点においては、あらゆる作業が発生しますし、必要とならば全てを監修しますので肩書きの必要性はあまり重要だと捉えていません。

僕にとってのソーシャルデザインは、人間本位の社会ではなく、動植物など生命全体に慈しみを持ち、現在の社会構造の悪循環に対して取り組みを始める方々へ、技術と情報を持ち、デザインを通じて正確な提案とサポートをプログラムする事ができるという職業です。

「イナ」 – 循環型システムデザインを通して日本をきれいにする

兼松:
最近の活動について教えてください。

松田:
日本一の家具産地である九州・大川のプロジェクトにイナのメンバーで取り組んでいます。展示会のプロデュースから始まり、循環型産地へ向けた地域再生プロジェクトの提案をしています。今、今年の10月に行われる展示会の制作が大詰めです。

reporteditright_938
大川家具工業会/秋の展示会ブックレット。
イナの取り組んだプロジェクトデザイン例
国内最大の家具産地、大川において年4回開催される家具見本市の秋の展示会を2006年度からイナがプロデュースし、インターナショナルエキシビジョンへのリニューアルと”持続可能な循環型産地へ向けたプログラム”を導入。

これまで、一枚のチラシ形式で捨てられていた案内状やマップを環境配慮されたポケットサイズのブックレット形式に変え、コンセプトやメーカーリスト、お土産や歴史なども紹介した保存を促進するものにする。会期前にインビテーションとして全国の家具バイヤーに向けて約1万部配布される物で、入場券も兼ねる。来場者が、移動時に読みながら来る可能性なども考慮し、大川の特性や新しい取り組みを到着までに把握する目的も果たす。

現地では、100円で販売。利益は、筑後川上流の森の再生活動、2006年度に参加したタイ国への植林活動へ回される。会期後の取り寄せも有料にて可能。利益は、同じく随時翌年の再生活動へ回されるシステム。

問い合わせ:協)大川家具工業会

松田:
イナでは、環境アドバイザー、クリエイティブディレクター、流通ディレクターなど、プロジェクトに合わせたプロ達の構成で、地域産業の循環型システムデザインを中心に、社会貢献型事業、環境修復事業、商品開発の立ち上げなど、さまざまなプロジェクトを展開しています。目指すものは、“水と安全は、ただ”と言われた日本を取り戻す事、そしてその循環システムの輸出を通じて、みんなで地球をきれいにするシステムをサポートすることです。

兼松:
また、「クリエイターの可能性」というポジティブなメッセージを掲げるCSPプロジェクトにはとても共感しています。詳しく教えていただけますか?

松田:
CSPプロジェクトは、実験と実践の場です。イベント“FORESTATION”の開催をひとつとして、有機的につながりあった仲間達から、さまざまなプロジェクトが自然発生し、それぞれの活動の幅を拡げていくことを目的としています。CSPの由来は、CSRという言葉から、CSP(CREATOR’S SOCIAL POSSIBILITY:クリエイターの社会的な可能性)。“責任から可能性へ”。つまり、全ての人ひとりひとりが、創造的な表現者として、自らの意思で能動的に行動をおこしてこそ、社会を変化させる力となることをコンセプトにしています。

現在は、Green Vote Projectというプロジェクトに取りかかっています。これは、活動をともにしている菊池辰徳(環境コンサルタント)が立ち上げたプロジェクトです。
Green Voteプロジェクトは“新しい選挙メディア”です。来年の統一地方選をターゲットに、『環境と政治』をテーマに展開をしていく予定です。現在、ジャーナリスト、環境コンサルタント、企業CSR担当、研究者、NPO/NGO、マスコミ関係者、アーティストなど、他にも頼れるさまざまな仲間達が参加しています。

兼松:
「Green Vote」!とても楽しみですね。ぜひgreenzでも追っていきたいです。

「デザイナーは現場から変えていける」クリエーターの社会的可能性

兼松:
松田さんなりにデザイナーの可能性をどうお考えですか?

松田:
デザインといっても、システムデザイン、インダストリアルデザイン、プロダクツデザイン、パッケージデザイン、WEBデザイン、広告デザイン、エディトリアルデザインなど、その対象によってさまざまな分野が存在します。デザイナー、アートディレクター、クリエイティブディレクターなど役割分担が明確になっている分野もあります。また、デザインと言っていいのかわかりませんが、バイオミミクリーなど、自然に対し、より科学的に、より精神的に歩み寄った分野も生まれています。

このようにデザインといってもさまざまな分野が存在していますが、どの現場においても、全体に及ぼす効果を考え、各自が積極的な行動を起こすことによって、社会を変化させる力になると信じています。

例えば、開発の現場では、資源効率のよい素材を使用し、環境負荷の低いモノを作る。また、広告や出版の現場では、社会性のあるビジュアル効果を生み出すことや、マスコミニケーションツールの開発などができると思います。つまり、全てのデザイナーが、大きな可能性を秘めています。

兼松:
アウトプットに関わるところにいるだけに、現場から変えていけるということですね。

松田:
はい。ただし、注意点は、大きなプロジェクトになればなるほど、こういった役割が細分化していく傾向です。大企業は完全に業務が細分化されているので、デザイナーも細分化された一部分を担当することになります。この行程において自分が何をすべきか、常に考えることです。

現状、経営者の意向が、開発の現場から広告やPRの現場までいくには、かなりの時間を要します。どんなにすばらしい経営理念を持っても、また、環境問題への取り組みや社会貢献を考えていても、経営者は、組織を運営する上で様々な課題があります。開発や広告の現場まで、それらの情報が的確に反映できるかは、それぞれの業務に就いているひとりひとりの意識と協力が重要です。

また、環境に対する取り組みに対しては、“早いか”、“遅いか”の違いです。行政の動きや世論が大きく関係してくるのでしょう。ここで情報伝達においては、マスコミやメディアの影響力が重要な役割を持つと考えています。現状を考えると、今後、ひとりでも多くの媒体関係者に、友人が増えることを期待しています。

兼松:
今日は貴重なお話、ありがとうございました!最後に一言お願いできますか?

松田:
今後、クリエイティブの役割とその責任は、更に重要になってくると考えています。また、断片的に細分化された環境をつなぐ役割も、僕たちの課題のひとつだと考えています。企画開発の担当の方々、広告PRに携わる方々、そして、これらの事業を円滑に進めるように協力/支援する経営者が増えてくれることを期待しています。

デザイナーに限らず、ひとり、ひとりが創造的に生きることによって、社会はストレスの少ない豊かで幸せなものに変化していきます。

松田創 プロフィール
1990年、デザイナーとしての活動を開始。広告を中心に、平面から立体までの多岐にわたる仕事を手掛ける。1998年、経済活動中心のクリエイションから『明鏡止水』として、コマーシャリズムとは一線を画した作家活動を開始。“日本文化と自然”をテーマに日本各地を巡り、各地の活動家、職人、学者、表現者達との共有プロジェクトによる作品を発表。それらの作品は、国内を中心に、世界7カ国において招待/展示/紹介されている。また、多くのメディアにおいて紹介され、幅広い層に根強い支持を得ている。2005年、『INA』を設立。同年、CSPプロジェクトを開始することで新たな注目を浴びている。現在は、ソーシャルデザイナー/環境制作アドバイザー/クリエイティブディレクターとして、さまざまなプロジェクトを展開している。
INFO:info@csp-project.com