ラウド・マイノリティー(1)

人種差別意識を最初に克服したのは音楽の世界からだった
ソウル・ミュージックがポピュラーになるまでには長い経緯がある。人種差別意識を最初に克服したのは音楽の世界だった。1950年代アメリカでの出来事。

70年代のソウル・ミュージックのことを書く前に、やはり1950〜60年代にアメリカで起こった黒人の公民権運動について触れなければならない。

50年代初頭のアメリカは赤狩りと呼ばれる反共運動が盛んだった。ちょうど今の世界でテロリストと疑われたら即刻人権を剥奪されるように、当時の共和党政府は反政府的な言動の顕著な人物に共産主義者というレッテルを貼って即座に活動の自由を奪った。
チャールズ・チャップリンや小説家ダシール・ハメットのほかウディ・ガスリー、ピート・シーガーといったフォークシンガーもその弾圧の対象となった。このような時代にあって自由と平等とはもっぱら建前で、居住区・学校・交通機関ほか、あらゆる状況で白人と黒人が分離され人種差別は公然と存在していた。

http://www.youtube.com/watch?v=mzfMRkiPU1c
フレッド・アステアと人気をに二分した俳優兼ダンサー、ジーン・ケリー1952年の代表作『雨に唄えば』の名シーン。
ハリウッド俳優労働組合副委員長を務めていたケリーも、赤狩りの対象としてマークされていた。この映画の撮影後ヨーロッパで長期滞在したのもマッカーシズムの嵐から逃れるためだったという説もあり、当時のハリウッドは偉大なエンターテインメント映画を数多く輩出したにもかかわらず表現の自由は存在しなかった。

Big Mama Thornton – Hound Dog
http://www.youtube.com/watch?v=-2aHVING6XQ
大戦後の享楽と新しい東西冷戦体制下の圧迫、差別社会という陰影の濃い時代にふさわしい音楽だったのかも知れない。クリーブランドのラジオDJアラン・フリードはそれ以前から黒人たちの間で流行していたリズミカルなビートを伴ったブルーズ=リズム&ブルーズ(R&B)をいち早く取り上げ、ロックンロールという呼び名でもって白人の若者たちの間に浸透させた。一般向けのラジオで黒人音楽をオンエアするという行為はそれまでタブー視されていたにもかかわらず彼のラジオ番組「ムーン・ドッグ・ショー」はますます
話題となり、フリードはクリーブランドの地方局からネットワーク局のニューヨークWABCへ移籍。ビッグ・ママ・ソーントン、ファッツ・ドミノ、ロイド・プライスといったアーティストを筆頭に、ロックンロールと呼ばれ出した黒人のリズム&ブルーズはこの勢いに乗って、以後全米ヒットチャートに頻繁に登場するようになる。

Fats Domino – You Win Again〜Let The Four Winds Blow
http://www.youtube.com/watch?v=1UsgnhGFXR4
ロックンロールという音楽を愛する若者たちにとって人種差別意識が希薄となりつつあった1954年、公立学校での分離教育を違憲とするそれまでの人種差別の根底を覆す画期的な判決が最高裁で下された。このときの連邦最高裁判所長官はリベラルで後世まで名を残したアール・ウォーレンだったのだが、大統領就任直後のアイゼンハワーが特に何の気なく行ったこの人事の時期が、つまりウォーレンの就任とロックンロールの台頭時期とが重なったことに、単なる偶然とも言えないものを感じてしまう。というのは、この最高裁判決を機に黒人を中心とするマイノリティーの公民権運動が、リズム&ブルーズの流行とともにこの後大きなムーブメントとなって全米に広がっていったからである。

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ピート・シーガー
アール・ウォーレン

この時代(1950年〜55年)の話題作
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Fats Domino Jukebox: 20 Greatest Hits the Way You Originally Heard Them [Best of]
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005YW4I
去年ハリケーン「カトリーナ」がニューオーリンズを襲った際、一時行方不明で多くのファンが心配したファッツ・ドミノのベスト盤。もはや生ける伝説。無事でよかった。

Big Mama Thornton – Hound Dog: The Peacock Recordings [Best of]
http://www.amazon.co.jp/dp/B000002OM2/
エルビスで有名になったタイトル曲”Hound Dog”を含むビッグ・ママ・ソーントンのピーコック録音ベスト盤。

ヒストリー・オブ・ロックンロール Vol.1
http://www.amazon.co.jp/dp/B000F3N5VS/
ファッツ・ドミノ、ルイ・ジョーダン、バディ・ホリーらの貴重な映像とミック・ジャガー、ボノ、ティナ・ターナーら著名ミュージシャンが語るロックンロール誕生のいきさつ。

* ロックンロールという言葉を流行させスキャンダラスな人生を送ったアラン・フリードのオフィシャルサイト
http://www.alanfreed.com/